米3月利上げ確定見通しと1800ドル台維持の金

米3月利上げ確定見通しと1800ドル台維持の金

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2022年1月19日

 

3月利上げの地ならしをするFRB

1月25~26日の日程で米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。昨年11月以降に大きく引き締め方向に舵を切った米連邦準備理事会(FRB)だが、2022年最初の政策会合は次回3月の会合に向けた政策方針を示す場になるとみられる。発言が規制される「ブラックアウト」期間に入るのを前に、1月第2週は2桁に上る数のFRB高官の発言が相次ぐことになった。それらはどれも1月5日に発表された12月FOMCの議事要旨の内容をさらに進めるもので、3月開催の会合での利上げ実施に向け、地ならしを進める意図を感じさせるものだった。

ソフトランディングに自信を示したパウエル議長

1月11日に米上院銀行委員会での再任承認に向けた公聴会に出席したパウエルFRB議長。「インフレは深刻な脅威」として抑制のため金融引き締めを進める考えを示した。発言内容の基調的部分は、米国経済はFRBによる大規模な刺激策を「もはや必要としていない」というものだった。失業率が低下を続けて足元で4%を下回ったことを挙げ、「労働市場は信じられないほど急速に回復している」ことから、年内に計画される引き締め策によって堅調な雇用市場が損なわれないとの認識を示した。着手している引き締め策は経済成長を阻害するものでなく、ソフトランディング(軟着陸)に自信を示したといえる。
筆者が注目したのは、「高インフレが予想より長く続くと判断した場合は、多くの利上げが必要になるかもしれない」としたこと。状況により22年の利上げは3回でなく4回もありということで、この辺りはすでにタカ派の地区連銀総裁などが指摘しているものでもある。

急な引き締め転換に懸念も

昨年12月の米消費者物価指数(CPI)は、前年同月比7%の伸びと、39年半ぶりの高さとなった。ただし、FRBも22年上半期少なくとも1-3月期にはさらなるインフレ高進を読んでおり想定内のものといえる。物価上昇の多くの部分は、新型コロナ禍でのサプライチェーン問題(供給制約)に伴ってもたらされている。それゆえFRBも「一時的(transitory)」としてきた経緯がある。「供給制約」については構造的に金融政策の対象外だが、FRBもそれをわかりながら、インフレ圧力の高まりに対する世論の高まり(不満)を放置できず、本格的な抑制にハンドルを切ったということだろう。まずは、引き締め(利上げ)で需要を抑え供給不足とのバランスを図ろうとしている。
足元のインフレ高進は、秋の中間選挙を見据えたバイデン政権の懸念とも符合することから、その意向を汲んだものとの見方も生まれる。しかし実態は、「物価の安定」というFRBのミッション(mandate)に沿ったものといえる。ただし、足元の高インフレが米国経済の潜在成長力の高まりを示した上での過熱でなく、新型コロナ禍の特殊要因の側面が強いとするならば、オーバーキル(やり過ぎ)リスク(株価の大幅調整、景気の腰折れリスク)が隠れていそうだ。

波乱が想定されるバランスシート縮小着手

話をパウエル議長の上院での証言に戻すと、年初の議事要旨で急浮上したバランスシート(保有資産)縮小については、前回の景気後退(07~09年)後に行われた時よりも、「より早期かつより速いペース」で進められる公算が大きいとした。バランスシートは「必要な水準をはるかに超えている」とも発言している。もはや一部のタカ派メンバーだけでなく、FRBの総意として「量的縮小」に向かうことが示されたが、利上げよりも金融経済に影響の大きい引き締め策ゆえに波乱なく着手・進行できるのか否か。いまや利上げに転じたあとも一定期間バランスシートは維持というシナリオは崩れ、年央にも縮小が始まるとの予想も珍しくない。しかも、米国債など保有資産の償還にともなった減少でなく、直接的な売却に言及するメンバーも現れている。着手後の株式市場の反応は要注意と思われる。

1800ドル台を維持する金

1月第2週のFRB高官の発言に話を戻すと、副議長就任承認のためのブレイナード理事の議会証言を含め、おおむねパウエル議長の発言に沿ったものだった。FRBによる路線転換は、テーパリング(量的緩和の減額)加速から前倒し終了へ、そして間を置かずに利上げ着手、さらに早期のバランスシート縮小決定および着手と、市場に息つく暇を与えないかのような流れになりつつある。
その中で1月14日のニューヨーク金先物相場の終値(清算値)は1816.50ドルとなった。テクニカル上の節目として米系ファンドを中心に意識されている1833ドルを越えられない状態にある。しかし金市場にとって、いわば「かなりの向い風」が吹く環境の中で1800ドル台を維持する状況は、底堅さを感じさせるものといえる。ちなみに初めて金が2000ドルを突破した2020年の年間平均価格は1769.59ドルとなる。足元で、この水準を上回る金だが、それだけサポート要因も存在していることを表す。
FRBの金融政策の方向性が明示される中で、当面高止まりしそうなインフレ環境、不安定化の様相をみせる株式市場の先行き、さらにウクライナ情勢に代表される地政学リスクの高まりなど不透明要因は多い。
米金融当局の政策は確かに金価格の方向性に大きな影響を与えるといえる。しかし、金市場にはFRBの存在も議長の名前も知らず、また関心もない、多くのアジアなど新興国の草の根的な一般の買い手も存在する。そして世界的なインフレの広がりの中で、買い意欲を高めている現状にも目を向ける必要がありそうだ。FRBの政策のみが金の方向性を決める要素ではないと言える。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。