カーボンニュートラルとリチウム狂騒曲

カーボンニュートラルとリチウム狂騒曲

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年12月29日

 
学生たちからの影響で、私も最近、短い動画をどんどん見るようになってしまった。今週は衝撃的な一本に出会った。それは一人のフィンランドの男の『自爆』動画だった。ただし爆破されたのは彼ではない。彼の―テスラModel Sだった。

なぜ彼は愛車、それも高級車のテスラを爆破したのだろうか?

発端は、最近、運転席の液晶ディスプレイに点灯されたエラー警告である。ディーラに行って検査してもらったところ、1ヶ月後、結果報告が届いた。そこには「解決方法はバッテリーを交換するのみ」と書かれ、さらに交換金額「2万ユーロ(約259万円)」の見積書も添付されていた。

彼は直ちに自分と同程度のModel Sの中古車価格をネットで調べた。すると約3万5000ユーロで買えることが分かった。彼はこの不条理に激怒した結果、30キロのダイナマイトを車体に縛り付け、みんなの前で爆破したのだ。

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画像1出所:Watch A Finn Blow Up His Tesla Model S With Dynamite (jalopnik.com)

その様子はYouTubeにもアップされている。この原稿を書いている12月28日現在、視聴回数はすでに460万回を超えた。

私は長くハイブリッド車に乗っているが、ガソリン価格高騰の今、完全な電気自動車に買い変えたいと思っていた。だが、この話を聞いてE V車の電池はいったい何年持つのか?交換代はいくらなのか?と知りたくなった。

ちなみに彼が乗っていたテスラのModel Sは2013年モデルで、今年で8年目。総走行距離は不明だが、8年でバッテリーがダメになって交換に260万円もかかるなら、当然、私にとって買い替えは考えられなくなる。

ちなみにModel Sの新車価格は一番安いグレードでも1200万円で、政府の補助金を使っても1000万円はする。いまのバッテリーは彼の2013年モデルより幾分良くなったと思うが、しかし一定年数でバッテリーの交換が必要、交換代金は新車価格の4分の1となれば、我々が向かおうとする脱炭素社会は果たしてどうなるのかと考えてしまう。

iPhoneのバッテリーの寿命と交換代金を思い出し、なんとなく納得する。世の中、どんどんエコになるが、エコのコストはなかなかエコではない。中国の電気自動車メーカーも言っている。「そもそもE V車コストの半分はバッテリーだ」。

ご存知の通り、中国は今や世界最大の自動車市場である。昨年のE V車販売台数は前年比2倍近くまで伸びた。それにつれて車載電池の原材料である『炭酸リチウム』の価格もどんどん上がった。

昨年前半は1トン単価4万元(約70万円)だったのに、いまや20万元(約360万円)と5倍に暴騰している。下は、今年9月27日から現在までの3ヶ月間の中国の『炭酸リチウム』の価格のグラフである。上昇幅はなんと59.58%だ。

生意社出所:生意社

しかし、クリスマスイブの12月24日、中国A株市場のリチウム関連企業の株価は、突然一斉に暴落した。世界最大手の車載電池メーカー寧徳時代(C A T L)は、1ヶ月前には時価総額が中国工商銀行を抜いて本土株第二位になったばかりにもかかわらず、下げ幅は一時9%を超えた。

この話を日本の市場関係者と話すと、すぐ「中国バブルの崩壊がついに近づいてきたか・・」といつもの目線で分析した。しかし、その日の暴落は、こんなニュースによって起きたのだ。

「青海省地質調査院の発表によると、青海省のバインカラ地区で東西方向約4000メートルにも伸びた巨型リチウム鉱床を発見。」

上がり過ぎた銘柄はちょっとしたきっかけでホルダーが一斉に利益確保に走り、売りが殺到するが。リチウム銘柄もまさにそれであった。中国経済崩壊とは程遠い。

イブの夜、Netflixは一本の新作をアップした。レオナルド・ディカプリオ、メリル・ストリープ主演の「ドント・ルック・アップ」。一つの彗星が地球に向かって来る。「人類滅亡級の危機」に迫られる中、世界最先端のスマートフォンメーカーのCEOが考えているのは、その彗星にあるレアメタルを採掘してボロ儲けという発想だ。

脚本・制作・監督は、アダム・マッケイ。彼はかつてあのサブプライムローンの崩壊を予測した男たちが空売りで億万長者になった実話を映画にした監督だ。彼は、今回も政治、メディア、インフルエンサーなどの要素を満載して、この時代を斜めに眺めた実に面白い作品を作り上げている。年末年始、ぜひ見て欲しい。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。