マカオ「賭博王」逮捕の先に何が起きる?

マカオ「賭博王」逮捕の先に何が起きる?

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年11月30日

 
2021年11月26日。1本のニュース速報が、香港、マカオ、中国のメディアに踊った。それは、マカオの「賭博王」=周焯華(アルヴィン・チャウ)氏の逮捕だ。

アルヴィン・チャウ

アルヴィン・チャウはマカオのカジノ仲介業大手「サンシティ・グループ(中国名:太陽城集団)」を創業した人物だ。この会社はかつて、和歌山県マリーナシティでのカジノ設置にも名乗りを上げていた。

この逮捕劇が意味深いのは、逮捕を執行したのはマカオの警察だが、それを依頼したのが内陸の浙江省温州市の公安局であることだ。ついに中国政府が「一国二制度」を破り、マカオのカジノも潰し始めたのか。調べてみると、色々な裏があることがわかった。

実は、今回の逮捕理由はマカオでのカジノ運営ではない。彼が中国内陸に張り巡らせた巨大な地下オンライン賭博、その名も「遠征賭博」に関するものだ。中国本土で賭博客引き代行ネットワークを構築し、中国人の遠征賭博およびオンライン賭博をあっせんした容疑がかけられている。

「遠征賭博」のシステムはこうだ。彼の会社はマカオにあるが、サーバーはフィリピンとカンボジアに置く。プレイヤーたちは中国国内にいながら、PCあるいはスマートフォンのアプリ経由で高画質な画面でテーブルを見ながら賭博に参加できる。

「遠征賭博」のオンライン画面「遠征賭博」のオンライン画面

参加した人の話によると、プレーは24時間可能で、常に100テーブルで展開されている。画面の向こうには女性のディーラーがいて、いつでもテーブルを変えられる。人民元決済は大歓迎。

ゲームはチップの種類で2つに大別される。1つは「電投」と呼ばれ、チップの最低金額5000元(約9万円)、最高250万元(約4500万円)。もう一つは「好E投」。こちらのチップの最高購入額はなんと4000万元(約71億円)で可能である。
もちろん、中国本土では国営の宝くじを除き、オンラインカジノを含めすべてのギャンブルが違法となっている。カジノが許されるのは、中国の特別行政区であり世界最大級のカジノ都市、マカオだけである。
ちなみに、彼がこの事業を始めたのは5年ほど前だと言われている。しかし、なぜこんなネットワークを5年も運営して、これまで無事だったのだろうか。実は、カオの彼の会社は中国のプレイヤーたちとは、一切、直接やり取りしない。全て仲介者にやらせるのだ。
仲介者は、2種類のステータスに分けられる。一つは「株主級代理」、もう一種類は「賭博代理」。彼らは中国国内の金持ちに話をもちかけ、オンライン賭博の会員になるように仕掛ける。浙江省公安側の発表では、中国国内で199人の「株主級代理」が存在、「賭博代理」は12000人もいるという。そして、彼らの仲介によって、中国国内だけで8万人の登録会員が日夜問わず参加し、年間約一兆元(約18兆円)のマネーが流れているという。

プレイヤーの収益は国内の口座に振り込むこともできるが、「貴賓カード」という口座にキープすることもできる。次回のプレーのチップ購入だけではなく、実際はプレイヤーの指示によって、マカオ、香港などの海外で証券、不動産購入まで代理する。これで多くの大金持ちは人民元資金を外貨化した上、海外に移動させた。つまり、事実上のマネーロンダリングのルートとなったのだ。

2019年7月、中国の経済参考報はこの「太陽城集団」の仕組みをスクープ、マカオ、香港などのメディアも一斉に掲載した。それを受けて同社の株価は20%暴落。しかし、翌週本人は記者会見を開き、こう強気に語った。「私は先週日本にいた。にもかかわらず、私は内陸で逮捕されたとか、逃亡されたなどデマが流された。全て事実無根だ」。

彼は、2020年にメディアで「私自身に関するデマ」を強く否定し、「私の会社も社員も事業も全てマカオにあり、中国国内で人を雇って賭博事業に関わったことは一切ない」という声明を出した。

2019年7月13日、記者会見の場面。2019年7月13日、記者会見の場面。

それから1年半。マカオの多くのカジノ場が新型コロナの影響でガラガラ、収益もどんどん悪化する中、彼は逆に中国国内大金持ちの巣ごもりに合わせてオンライン賭博でどんどん儲けた。

しかも表向きの顔は、「祖国統一を支持する愛国者」で、2019年自ら「港澳同胞奉献祖國70周年大型巡迴展覽」というイベントを企画し、「一帯一路」を実現するため自分の力を貢献すると声高く宣言したのだ。またここ数年、中国で制作された「愛国主義の映画」に、多数投資した。

しかし、皮肉なことに、まさにその政府擁護の愛国者の演出の裏で、中国の公安当局は彼を泳がせながら、裏で捜査の網をどんどん手繰り寄せていた。11月26日には逮捕状を発行され、翌27日、マカオ警察が彼を逮捕した。

今から振り返ると、今年8月、彼は突然自分が所有する「太陽城集団」の全株を売却していた。その時点で、すでに捜査の手が近づいてきたことを感じていたのだろう。

だが、彼の逮捕はただの始まりかもしれない。警察に押収された119人の「株主級代理人」、12000人の「賭博代理人」の名簿、さらに8万人の顧客会員の名簿からは、あっというような大物が出てくるかもしれない。もしかするとそれは政界財界にもいるかもしれない。このニュースからは今後も目が離せない。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。