金の値動きに質的な変化の可能性

金の値動きに質的な変化の可能性

(金融・貴金属アナリスト) 亀井 幸一郎
2021年10月4日

 

政策転換を模索するFRB

米国の金融政策の転換点が訪れようとしている。米連邦準備制度理事会(FRB)が、新型コロナ危機対応緩和策の解除のタイミングを計り始め、11月の連邦公開市場委員会(FOMC)にてテーパリング(資産買取りの段階的縮小)を決める意向を示している。
 2020年3月以来続けてきた政策の根幹ともいえる「少なくとも」毎月1200憶ドルの資産買入れ(量的緩和策)と、ゼロ金利政策は功を奏し、米国は経済規模では2021年4-6月期に新型コロナ前を上回るところまで回復している。その一方で、短期間に大量に供給された資金(ドル)は、株式などの資産価格を押し上げ、過熱というより既にバブルの領域に入っていることを示す指標は多い。

9月まで3回のFOMCを経て波乱なくテーパリングを市場に織り込ませることに成功したFRB。それでも、これまでの逆向きの「締め」を意味する政策方向に市場は神経質になる。テーパリング自体は、資金供給の終了を目指すのみで超緩和環境に変わりはない。実際に直近のFRBの資産規模は8兆4479億ドル(21年9月29日)と1年前(7兆931憶ドル、20年9月23日)から1兆3548憶ドル(約150兆円)もの増加となっている。テーパリング終了時には8兆9000億ドルほどの規模になり、当面放置されることになる。その上で、次のステップとなるゼロ金利の解除(利上げ)を模索することになる。

FRBのシナリオに綻び

市場に波乱を与えないよう万全を期して事に当たっているFRBだが、ここにきて想定外が生まれつつある。それが新型コロナ禍により寸断されたサプライチェーン問題(供給障害)の回復が、想定より時間が掛かる見通しが高まっていることだ。
半導体不足また他の部品不足からトヨタはじめ内外の自動車メーカーは生産見通しを大幅に下方修正していることがわかりやすい。部品の生産自体が滞ることに加え、コンテナ輸送など物流の滞りも加わり、それがコスト高につながっている。つまり想定外のインフレ圧力に転じつつある。
こうした中で9月28日に議会証言に立ったパウエルFRB議長は、新型コロナ・パンデミック(世界的大流行)からの回復に伴う米国での物価上昇や雇用の問題が「予想以上に長引く」恐れがあるとの見解を示した。「物流を含め需給バランスの崩れや雇用の困難、他の制約の度合いが想定以上に大きく、長引く恐れがあり、インフレに上振れリスクを及ぼす可能性がある」とした。ただし、仮にそうした想定外のインフレに見舞われた場合でも、目標の2%に落ち着かせるためにFRBは確実に対応し、政策手段を講じる」とした。

インフレ懸念が傷める市場センチメント

もとより足元のインフレ高進は「一時的」とするパウエル議長などFRB中枢部だが、市場の受け止め方は、ここにきて徐々にかい離が生まれている。そもそもインフレになった場合でも、対応策はあるので安心しなさいと言われても、対応策は利上げであり、資金供給を絞ることであるから、結局、引き締め策の前倒しを意味すると市場は解釈する。元はといえば、サプライチェーン問題の長期化と新型コロナ感染の沈静化がデルタ株の登場で遅れたことがあるが、想定外に対する市場の警戒が株式をはじめ市場の不安定化につながっている。

重なる不透明要因

こうした折に、中国不動産開発大手、恒大集団の経営危機に象徴されるチャイナリスクも加わることになった。中国の国内問題に限られるとの見方もあるが、金融危機に至らずとも中国経済の予想以上の減速につながる可能性があり影響は避けられないだろう。
さらに米国内では財政協議を巡り与野党間で政治的駆け引きが続くばかりに、審議はこう着状態にある。これも不透明要因として加わっている。8月以降米国政府は連邦債務上限の発効により、新規の借り入れが出来なくなって2カ月余り経過し、財務省のやりくりも今月18日前後には資金切れに陥るとの指摘がされている。もっとも予想には幅があり11月上旬までは問題なしとの見方もあるが、その前に国債の利払いが控えるので早めに手を打たないと不測の事態は否めない。

逃避先としての金(ゴールド)

こうした状況の中で金市場の値動きに変化が表れている。安全資産(Safe Haven)としての観点からの逃避資金の流入を思わせることによる。9月後半から今月に入り不安定化した米国株式との関係からもそれは指摘できる。過去の株価急落の折には、キャッシュ捻出(cash-out)の動きから同時に金も売られる状況が見られてきたが、むしろリスクオフセンチメントの高まりの中で、金が買われる傾向が高まっている。特定するならば恒大集団の経営危機が浮上した9月中旬あたりからだろうか。こうした傾向は5月下旬に暗号資産(仮想通貨)が急落した際にも見られたが、その後はFRBのテーパリング論議に流れは霧消した。展開次第ではFRBの政策方針にも影響を与えそうな足元の流動的な環境の中で、金の動きにも質的な変化が生まれている可能性がありそうだ。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役
金融・貴金属アナリスト亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏
亀井 幸一郎(かめい こういちろう)氏

1979年中央大学法学部卒業。山一證券入社
87年投資顧問会社MMIにて証券および金市場分析レポートを担当、92年国際的な金の広報調査機関ワールドゴールドカウンシル入社。企画調査部長として経済調査、金市場のマーケット分析に従事。1998年独立し分析、評論活動に入る。「史観と俯瞰」をモットーに金融市場から商品市場、国際情勢まで幅広くウオッチしている。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経CNBCテレビ、ラジオNIKKEI等でのコメント、市場分析のほか、時事通信社「アナリストの目」「Gold Daily Report」、日本金地金流通協会ウェブサイト、市況解説など定期寄稿中。