中国が動かす鉄スクラップ・鉄鉱石相場

中国と鉄スクラップ

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年3月2日

 
鉄鉱石と並ぶ鉄鋼原料である鉄スクラップ。このところ、日本の鉄スクラップの輸出が好調だ。2020年の日本の鉄スクラップ輸出量は939万トンと前年比プラス23%。2010年に記録した最高輸出量を上回った。2021年1月契約分の輸出価格が12年5カ月ぶりの高値を付けたニュースを記憶されている方も多いだろう。

最大の要因は中国からの大量発注だ。中国鋼鉄協会(CISA)のデータによると、2021年1月末には、中国鉄鋼最大手「宝武鋼鉄集団」のグループ会社「欧冶鏈金再生資源」が「三井物産」から3000トン、「浙江巨東社」が日本の「和平商事」から2800トンの鉄スクラップを買い付けている。
これは中国が2018年末、鉄スクラップの輸入規制を撤廃して以来、初めての大型買い付けである。なぜ、今、中国が日本から大量の鉄スクラップを買うのか。それには建前と本音、2つの理由がある。

まず建前からお話しよう。それはCO2排出量削減である。昨年後半、いち早く新型コロナを抑えこんだ中国では、景気回復を軌道に乗せるために大々的なインフラ建設を行った。それによって、2020年の中国の鉄鋼生産量は大幅な上昇を見せた。

中国国家統計局が今年1月18日に発表した2020年の国内粗鋼生産量は、前年比5.2%増の10億5000万トン。初めて10億トンの大台に乗せ、4年連続で過去最高を更新した。ロイター通信によれば「序盤は新型コロナウイルス感染拡大による影響で鉄鋼需要が落ち込んだが、政府の景気刺激策がインフラ投資を加速させ、第2・四半期以降は急速な回復を見せた。」という。

だが、これによってCO2排出量も大幅に増加してしまった。というのも、中国の鉄鋼生産の90%は、鉄鉱石と電力を大量に使い、かつ大量のCO2を排出する高炉だから。そこで、中国政府は、2025年までに鉄鋼生産における高炉の比重を減らし、鉄スクラップを原料とする電気炉の比重を現在の10%から20%に上げると決定した。

【中国における電炉製鋼量推移】ドル建てプラチナ(出所:Refinitiv)

そして裏の背景は中国とオーストラリアの政治関係である。今や世界の鉄鋼生産量の半分を占める中国。2020年の鉄鉱石の輸入量は11.7憶トン。これはコロナ流行以前、2019年度の輸入量を9.5%上回るが、その60%をオーストラリアに依存している。
しかも鉄鉱石価格は高騰している。

鉄鉱石価格の推移ドル建てプラチナ鉄鉱石価格の推移(『TradingView』より引用)

とりわけ、この1年の高騰は目を見張るほどだ。2020年02月04日には80.40ドル/トンだった価格が、2021年2月24日には178ドル/トンにもなっている。


追い風に乗ったオーストラリアは、2021年の輸出量を9.06憶トン、輸出収益を1230憶ドルと見込んでいたが、それに水を差したのが、日米豪印戦略対話(クアッド)だ。
オーストラリアは“中国包囲網”ともいわれるクアッドに積極的に参加したうえ、HUAWEIに対して国内の5G関連事業への入札を禁止。その報復として、中国はオーストラリア産大麦に80.5%の追加関税を課し、オーストラリア産牛肉の輸入も減らし、オーストラリア産ワインの反ダンピング調査も行った。だが、その一方で、景気回復の肝であるインフラ建設を実現するために、オーストラリア産鉄鉱石、天然ガス、石炭は大量に買っていた。

オーストラリアがさらに中国に鉄鉱石を売ろうと目論んでいた矢先、中国は新たな調達先を見つけた。それはアフリカのシエラレオネ共和国だ。

ダイヤモンドの産出国として知られるシエラレオネは、実は世界有数の鉄鉱石備蓄大国でもある。中国の大手国有企業「山東鋼鉄集団」は、2012年にシエラレオネのトンコリリ鉱山開発に15億ドルを投資、100%子会社も所有していた。トンコリリ鉱山は、面積408平方キロ、資源量は137憶トン。港までの鉄道も整備されている。

かつては中国の鉄鉱石輸入相手国の第6位だったシエラレオネだが、2014年からのエボラ出血熱大流行などの問題で、一時は、鉄鉱石生産量はゼロになっていた。だが、昨年9月、中国の大手民営企業「慶華能源集団」が「山東鋼鉄集団」から鉱山を買い取り、再び鉄鉱石の生産を開始。今年1月29日には、中国への輸出第一便の船が出港した。

<画像解説>
シエラレオネ発中国行きの船。
※横断幕には、「慶華New Tonkolili鉄鉱プロジェクト初の出荷出航の成功を祝うと書かれている。
※写真は在シエラレオネ中国大使館のリリースより

シエラレオネ発中国行きの船。横断幕には、「慶華New Tonkolili鉄鉱プロジェクト初の出荷出航の成功を祝うと書かれている。写真は在シエラレオネ中国大使館のリリースより
これを受けて、シエラレオネから鉄鉱石を満載した船が中国へ出航する前日の1月28日、鉄鉱石相場は下の表のように、1日に5.65%も下げ、さらに2月2日は3.81%下げた。これによって昨年12月22日に史上最高値を記録、高止まりしていた鉄鉱石価格は、そこから21%も下がったことになる。 

高炉から電気炉へ、オーストラリア一極集中から、ブラジル・インド・シエラレオネなどの分散型へ。中国のこの2つの変化だけで相場はこれほど激しく動くのである。

中国とオーストラリアの政治関係が、今年もこのままであるなら、日本は鉄スクラップの輸出だけ見ても、大いなる漁夫の利を得ることだろう。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。

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