「円建てゴールド、史上最高値を大きく更新、とうとう8000円超え」

円建てゴールド、史上最高値を大きく更新、とうとう8000円超え

(貴金属スペシャリスト) 池水 雄一
2022年4月16日

 

(円建てゴールドとドル円の動き:過去20年)(円建てゴールドとドル円の動き:過去20年)(出所:Refinitiv)

このところ円建てのゴールドは歴史的高値を連日更新しました。一か月前の前回のレポートで、「ロシアのウクライナ侵攻とゴールド」というテーマで、ゴールドがまだまだ堅調であろうと書きましたが、4月13日、円建てゴールドはとうとう8000円を超え8024円まで上昇しました。ロシアのウクライナ侵攻は開始からほぼ7週間が経ち、おそらく当初ロシアが見込んだ短期的な武力制圧の目論見は大きく外れてまだまだ長期的な混乱が続きそうな状態です。マーケットはさすがにこの状況に「慣れて」しまい、もちろんこれからの展開次第では再び地政学リスクとしてマーケットに再び捉えられることがあるかもしれません。しかし、現在はこの地政学リスクはどちらかというと脇役に押しやられており、マーケットの最も重要なテーマは「インフレ」になってきています。

「40年ぶりのインフレ」

(米CPIとゴールド過去40年の動き)(米CPIとゴールド過去40年の動き)(出所:Refinitiv)

4月12日に発表された3月の米CPI(消費者物価指数)は、史上予想の8.4%を上回り8.5%となりました。2月のCPIが7.9%で40年ぶりの高いレベルでしたが、3月はさらにインフレが進みました。そして翌日発表されたPPI(生産者物価指数)は11.2%と過去最大の上げとなり、市場予想の10.6%よりも遥かに高い数字となりインフレがもはや抜き差しならないくらいに進んでいるということがより明白となりました。このインフレの上昇とともにドル建てゴールドも一時1980ドルまで上昇しました。FRBはインフレ対策にまさに追われる形になっています。そもそもこれだけ急速にこれだけインフレが進んだ重要な原因は、FRBによる金融緩和政策が長らく続いたことによる市場の資金過剰、そしてパンデミックによる物流の混乱(ボトルネック)などの原因があります。これはすなわちFRBが昨年いっぱいくらいまでのこの数年間、インフレはあくまで「一時的」であるとし、パンデミックにより失われた「雇用」の再生を重要視し、インフレに対する対応を怠ってきたことが今回のような40年ぶりのインフレを加速させたと言えます。雇用を重要視したFRBの政策はもちろん理解できる判断ではありますが、あまりにインフレを軽視したのが現在の40年ぶりのインフレを招いてしまったことは否定しようがありません。
 前回、CPIが8%近くまで上昇したのは1982年、レーガン大統領の時代、いわゆるレガノミックスでスタグフレーションに対応していた時期です。当時のCPIがまさに現在と同じレベルでしたが、金利は14%と現在の0.5%よりも遥かに高いレベルにありました。この事例だけをみても現在の金利が過去例がないくらいの低金利に放置されているというのがよくわかると思います。米経済がほぼほぼ完全雇用に近い状態に戻ってきて、ようやくFRBはインフレ対策へと動き始め、3月のFOMCから金利を上げ始めました。従来金利上げはゴールドにたってマイナス要因となってきましたが、今回は元々のベースがあまりに安すぎるために(0~0.25%)、少々の金利上げでは全く追いつかない、ということを市場は十分に理解しているがために、たとえば4月のFOMCで0.5%の金利上げがほぼ確定的になっても、ゴールドは下がるどころか返って上昇基調です。つまり現状のインフレの状態を見る限り、このような小さな金利上げでインフレを抑えることは不可能、逆にこれまでにくらべると非常に高止まりしている金利も、絶対的レベルで考えるとまだゼロに近いというレベルであることを考えると、経済政策によるインフレの押さえ込みはほど遠く、投資家はインフレヘッジとしてのゴールドを買うという行動に出ているのです。この状況下では短期的な利食いによる下落はあっても、トレンドとしてゴールドが下落傾向になることは考えづらいといえるでしょう。

「続く円安」

(ドル円の動き:1ヶ月)(ドル円の動き:1ヶ月)(出所:Refinitiv)

円建てゴールドの高騰のもう一つより重要な要因はずばり「円安」です。特に3月からの円安の流れははっきりしています。その背景は、FRBが上記のインフレ対策として、よりタカ派的な金融引き締めをはっきりさせてきたということです。つまり金利を今後上げていくという姿勢を強く表明したことがあります。ところがその一方、日本銀行は3月28日に国債を指し値で無制限に買い入れる(つまり資金を無制限に市場に供給する)「指し値オペ」を通知し、その瞬間からドル円は122円から125円まで急激な円安すすみました。今後金利が上がる米ドルに対して、円金利は日銀による資金供給により抑え込まれるという、「金融引き締め」と「金融緩和」の真逆の政策となり、当然ドル買い、円売りという動きになります。4月15日現在126円台半ばまで円安はすすんでおり、このファンダメンタルズがはっきりしている現在、円安ドル高の流れはまだまだ続くと考えます。とすれば、円建てのゴールドは8000円で止まるとは考えられず、おそらくまだまだ上値があり得ると思います。インフレが、円安が、まさに円建てゴールドを最も持っておくべき資産にしているのです。

日本貴金属マーケット協会 代表理事
貴金属スペシャリスト池水 雄一(いけみず ゆういち)氏
池水 雄一(いけみず ゆういち)氏

1962年生まれ兵庫県出身。
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。
2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーで池水氏の名を知らない人はいない。