ビットコインは「デジタルゴールド」になれるか

ビットコインは「デジタルゴールド」になれるか

(東海大学教授/ジャーナリスト) 葉 千栄
2021年4月26日

 
このところ、ビットコイン、イーサリアム、リップル、ライトコイン、ドージコインなどの仮想通貨が世界中で人気となっているのは皆さんもご存知の通りだ。
昨年10月以来、300%もの急騰を見せたビットコインの値動きがここにきて怪しくなっている。なかでも4月後半の暴落は記憶に新しい方も多いだろう。4月22日夜11時(日本時間)に、5万5000ドル台だったビットコインが、一夜にして4万8000ドル台に暴落。7000ドルもの下げとなった。

報道によれば、全世界で流通しているビットコインは18,374,575枚。そうすると、なんと1,158億ドルが一夜にして蒸発したことになる。この日は他の仮想通貨は大丈夫だろうという見通しも出ていたが、翌日、イーサリアムが14.44%、リップル20.22%、ライトコインが18.94%下落。ドージコインも一時26%という暴落を見せた。

日本の取引所では購入できない「ドージコイン」だが、可愛らしい柴犬のミームでおなじみの方も多いだろう。もともとはアメリカのあるネットフォーラムでお世話になった人にチップを払うために生まれた「ドージ」。
投機目的ではなく、ビットコインのパロディとして作られたという珍しい仮想通貨だ。そしてこの「ドージコイン」は著名人、なかでもテスラCEOのイーロン・マスクの発言で大きく値が動くことで知られている。

ドージコイン

暴落の1週間前、4月15日。ドージコインは1週間で最大400%の上昇を記録し、時価総額500億ドルとなった。その日、イーロン・マスクは自らのTwitterにミロの「月に吠える犬」の画像とともに、こんなテキストを投稿した。

「Doge Barking at the Moon」。
月に吠える犬「月に吠える犬」 ジョアン・ミロ作

これまでもマスクの発言のたびに暴騰していたドージコインだが、このTweetの8分17秒後には17.31%の上昇を見せた。
イーロン・マスクの発言で価格が動くのはビットコインも同様だ。テスラは2021年2月8日、15億5000万ドルのビットコインを保有していることを公表したが、その結果、公表直前の3万9000ドル台から4万4000ドル台にまで急騰した。
さらに3月25日、イーロン・マスクがTwitterで「You can now buy a Tesla with Bitcoin(ビットコインでテスラのEVを買えるようになった)」と書き込むと、ビットコイン価格は再び上昇。4月14日、世界最大の仮想通貨取引所コインベースがNASDAQに上場する直前には、ついに6万4,000ドルという史上最高値を更新した。

ところが、それからわずか8日後の4月22日には冒頭に触れたビットコインの大暴落が起き、翌日には上位20種の仮想通貨のうち18が下落。過去1週間の上昇幅が400%だったドージコインも最大40%下げたが、マスクはその後、仮想通貨について触れる様子はない。(4月26日現在)

この半年、主要各国ではコロナ禍で大規模な財政出動と金融緩和が行われ、通貨供給量も増加した。一部ではインフレ懸念も高まっており、従来なら金相場が好調になるところだが、このところの金の値動きはさえない。

「もはや金は時代遅れ」「仮想通貨の時代だ」、なかには仮想通貨を「デジタルゴールド」と呼び始める人さえ出てきている。だが、私は仮想通貨をデジタルゴールドと呼ぶのは全くの間違いだと思う。各国の中央銀行が、仮想通貨をドルやユーロ、金のような「外貨通貨」として購入する動きは皆無だからだ。

また仮想通貨を中国のデジタル人民元と結び付ける向きもあるが、デジタル人民元と仮想通貨は全く異なる性質のものだ。そもそも中国のデジタル人民元は中国中央銀行が発行するものであり、価値が担保されている。しかも、デジタル人民元発行の理由は仮想通貨と相対するものである。

中国のスマートフォンアプリで表示されるデジタル人民元画像(中国のスマートフォンアプリで表示されるデジタル人民元画像)

ここ数年、中国では富裕層が国内の両替規制を様々な形ですり抜け、海外に資金移転していることが問題となっている。その手段として相当な量の仮想通貨が利用されている。つまり、仮想通貨を中国国内で購入後、海外にいる家族や知人と暗証番号を共有し、海外で換金するのだ。また政府は、仮想通貨はマネーロンダリングにも利用されているとみている。

そこで、中国政府は、2017年、世界のビットコイン取引の90%を占めると言われた国内の仮想通貨交換業者の業務を一斉に停止、人民元による仮想通貨購入も禁止した。
だが、現実には、中国の投資家達は引き続き仮想通貨取引を行っている。海外に移転したHuobi、OKExなどの中国業者のプラットフォームで身分証データを入力すれば口座開設もオンライン取引もたやすくできるのが実情だからだ。また購入も米ドル連動型ステーブルコイン「テザー」を介せば行うことができる。

こういったすり抜けを抑え込むために誕生したのがデジタル人民元なのである。政府主導のデジタル人民元は通貨のすべての動きを追跡できるように設計されている。誰がどこで使って何を購入したのか、誰に送ったのか。その詳細を国が完全に把握できるのだ。
またビットコインのマイニングやブロックチェーン技術の活用に必要な大量の電力問題も中国政府にとっては頭の痛い問題だ。その電力消費量はデンマーク、アイルランド、バングラデシュなど中小国家の電力消費量に匹敵し、CO2の膨大な排出につながっているといわれている。

とくに中国の農村地域は電気料金が安いため、「マイニングの理想的な立地」と言われ、2020年4月現在、中国はビットコインのマイニング計算能力において世界の78.89%を占めている。

上海にも編集拠点を持つ著名科学雑誌『ネイチャーコミュニケーションズ』には中国科学院と清華大学の研究グループのこんな予測が発表された。「2024年には中国国内の仮想通貨の電力消費量は296兆5900億Wh(ワット時)に達し、1億3000万トンものCO2(二酸化炭素)が排出されるだろう。」
これは4月23日の気候変動サミットでCO2排出削減についての協力を約束した中国にとっては大いに困る話であり、座視できない。

4月23日の仮想通貨暴落のきっかけは、バイデン政権の富裕層への増税政策やトルコのビットコイン取引所創立者の持ち逃げ事件が影響しているといわれている。4月26日には「JPモルガン・チェースが一部の顧客向けにアクティブ運用のビットコインファンドを準備している」という報道で一時12%高となったが、上述の現状から、今後、中国政府は仮想通貨に対する更なる規制を加える可能性がある。それに伴い、デジタル人民元の本格導入が進められれば、今後の仮想通貨相場には少なからず影を落とすだろう。決して楽観視はできまい。

東海大学教授 ジャーナリスト葉 千栄(よう せんえい)氏
葉 千栄(よう せんえい)氏

1957年上海生まれ。1985年来日。1992年より早稲田大学大学院政治研究科に在籍、修士課程修了。
この間、香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員をつとめる。現在、東海大学教授として、東アジアの政治・経済に関する講義を行うかたわら、日中・米中関係、中国の政治経済を鋭く分析するジャーナリストとして執筆・講演をこなす。「たけしのTVタックル」「ニュース23」「朝まで生テレビ」「関口宏のサンデーモーニング」などTV番組のゲスト出演も多い。また、中国中央電視台(CCTV)や、”中国のCNN”と呼ばれる香港フェニックスTVでも、番組コメンテーターとして出演中。