日産証券ゴールドコラム

日産証券ゴールドコラム

(貴金属スペシャリスト) 池水 雄一
2022年1月15日

 
今年初めての寄稿になります。今年も貴金属マーケットに関していろいろ書いていこうと思います。今年もよろしくお願いいたします。

「2021年のマーケット回顧」

(2021年の上場商品騰落率)(2021年の上場商品騰落率)(出所:Finviz.com)

2020年から本格化したパンデミックの影響を大きく受けた未曾有の世界状況が続いていますが、コモディティの価格はまさに世界の経済情勢を映す鏡であると言えます。パンデミックによるロジスティックスの混乱、世界的なロックダウンによる生産の減少そして穀物では生産地の天候不順などが重なりました。2021年の上場商品(金融商品を含む)年間パフォーマンスは2020年とは様変わりとなりました。12月24日現在でゴールドはマイナス4.49%、シルバーはマイナス13.26%、プラチナはマイナス9.69%そしてパラジウムは21%と最も下がったコモディティとなり、貴金属は一様に大きく下げた一年でした。昨年2020年はシルバーが47%、パラジウム25%、ゴールド24%、プラチナ6.7%といずれも大きく上昇したマーケットであったことの反動であったとも言えるでしょう。逆に今年上昇したコモディティはオーツ麦(96%)、コーヒー(80%)、菜種油(60%)、灯油(57%)、ガソリン(57%)、エタノール(55%)、WTI原油(52%)、天然ガス(47%)、木材(47%)、そしてブレント原油(46%)がトップ10となっており、大きく上昇したのは、食品、そしてエネルギーでした。そして軒並み下げに転じたのが貴金属に加えて、米国債です。米国債の価格が下がるということは金利が上昇したということです。食品そしてエネルギーの価格がこれだけ上昇し、金利が上昇しているということはつまり、2021年のコモディティマーケットの上昇は「インフレ」の進行をまさに示していると言えます。
米国の中央銀行であるFRBは2021年12月に至るまで、このインフレをパンデミックの影響による供給のボトルネックが原因とした「transitory」、つまり「一時的なもの」として、軽視してきました。しかし11月の米国消費者物価指数は6.8%と過去39年来のレベルまで急騰、その他のインフレ指標も過去例をみないほどの「価格の上昇」を示していることで、そしてそれが一時的ではなくもはや二年近く続いています。ここにきてFRBももはや一時的という言葉の使用をやめて、これまでパンデミックのために失われた雇用の回復を最大の目標にしてきた路線をインフレ対策への方向転換にすることを12月のFOMCではっきりさせました。残り800万人の失業者よりも2億人の生活のかかったインフレの方が当然バイデン政権にとってはその支持率が左右される重要な問題であり、パウエルFRB議長の再任の際にもおそらくはホワイトハウスの意向がある程度示されたのではないでしょうか。2022年のマーケットの最大の注目点はずばり「インフレ」になるでしょう。食品そしてエネルギー価格の上昇はすべてのコストの上昇につながります。それは直接的には貴金属の生産コストの上昇につながり、間接的にはインフレによる通貨価値の下落、コモディティ価格の上昇となり、2021年は2020年の大幅な上昇の反動で下落となった貴金属も上昇の年になるのでと考えます。

「2022年第一週」

2021年はゴールドは3.6%の下落になりましたが、これは2015年以来の下落。しかしその反面、ドルが6年ぶりに5%もの上昇を記録し、金利の上昇予想がマーケットに広がったことを考えると、ゴールドの3.6%の下落は逆に、ゴールドは堅調であったという印象を持ちます。そして株式市場は、過去2年間、世界各国政府と中央銀行によるパンデミックでの経済不況対策のための大規模な金融緩和と財政出動が功を奏して、軒並み歴史的高値を更新する上昇を考えると、さらにゴールドが堅調であったと感ぜずにはいれません。

2022年に入り、年初に目立った最初の動きは米国長期金利の上昇でした。年初第一週にして10年物長期金利は1.53%から1.8%まで急騰、ゴールドはこれにより1800ドルを割り込みましたがそれでもまだ1795ドルです。前回長期金利が1.8%であったのは2020年1月半ばでちょうど2年前でした。その時のゴールドは1556ドルでした。240ドルものプレミアムがついているということになります。金利の上昇はゴールドにとってはマイナス要因とされますが、これだけの金利の急騰にも下値抵抗力は強く、金利そのものの動きよりも、「インフレ」の動きがよりゴールドにとって重要なものとなっているのでしょう。そのインフレに対してのFRBの動きを示す12月のFOMC議事録が公開され、想定よりも早めの金利上げとFRBの資産縮小の見通しで金利が上昇したわけですが、今度もFRBがどのようにインフレに対処していくのかが最大の市場の注目点となります。そしておそらくそう簡単には沈静化しないであろうインフレの進行に対しては、ゴールドは「インフレヘッジ」としての役割がより強く意識される一年になるのではないでしょうか。

(米国長期金利とゴールドの動き:過去2年間)(米国長期金利とゴールドの動き:過去2年間)(出所:Refinitiv)

日本貴金属マーケット協会 代表理事
貴金属スペシャリスト池水 雄一(いけみず ゆういち)氏
池水 雄一(いけみず ゆういち)氏

1962年生まれ兵庫県出身。
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。
2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーで池水氏の名を知らない人はいない。