「プラチナとパラジウム、見えてきた価格の再逆転」

「プラチナとパラジウム、見えてきた価格の再逆転」

(貴金属スペシャリスト) 池水 雄一
2021年10月16日

 
プラチナとパラジウムの値差が急激に縮小しています。プラチナとパラジウムの価格が最初に逆転したのは2017年の9月後半で、完全にパラジウムがプラチナを上回ったのは2018年4月からで、それ以降パラジウムとプラチナの値差は大きく開いて行きました。

最大の値差は2020年2月末には1950ドルまで広がり、プラチナ900ドルに対してパラジウムは2850ドルまで上昇し、3倍以上の価値になりました。10年前2011年9月後半プラチナは1974ドル、パラジウムは987ドルで、プラチナの価値はパラジウムの2倍でした。

2008年には一時プラチナがパラジウムの4.6倍ということもあったのです。

(ドル建てプラチナとパラジウム価格)(ドル建てプラチナとパラジウム価格)(出所:Refinitiv)

そもそもパラジウムがプラチナを逆転することになった背景はその需要構造にありました。プラチナ、パラジウムともにその需要の最大の分野は自動車の排ガス触媒です。プラチナの需要の4割、パラジウムの需要の8割が自動車触媒。しかしプラチナはディーゼル車の触媒に、そしてパラジウムはガソリン車の触媒に使われるメタルであったことが、この価格逆転(パラジウムがプラチナを上回る)の直接的な原因でした。世界で生産される自動車の大部分がガソリン車であり、ディーゼル車の割合を考えるとその触媒需要は圧倒的にパラジウムが多いことは簡単に想像できると思います。

Metals Focusの統計(PGM Focus2021)によると2021年の需給予想ではパラジウムの自動車触媒需要は年間283トンであるのに対して、プラチナの自動車触媒需要は91トンと三分の一に過ぎません。そもそも触媒としての性能はプラチナの方が優れています。しかし価格はプラチナの方が高かったのです。ディーゼル車がプラチナ触媒を使った理由は、当時はプラチナよりもはるかに安かったパラジウムは、性能的にディーゼル車の触媒には能力不足だったからです。そのためディーゼル車は高いプラチナを使わざるを得なかったのです。

しかしガソリン車では、より価格の安いパラジウムで十分触媒としての機能を果たせたので、パラジウムがガソリン車に使われることになりました。パラジウムが安かったことが、皮肉なことにパラジウムとプラチナの価格逆転を招く要因となったのです。しかし実際この流れはもう10年前くらいから、はっきりしており、毎年の需給の流れをみていた人間にとっては、パラジウムの自動車触媒需要の加速度的増加の傾向から将来プラチナとパラジウムの価格が接近することは予想ができました。しかし、まさかパラジウムがプラチナの3倍まで価格が高騰するとは予想できた人間はそれほどいないと思います。

ここまでパラジウムが上昇することによって、今度は逆にプラチナによりパラジウムの代替をするという動きが出てきました。プラチナの方が触媒性能が高く、その上価格がパラジウムの3分の1ということになれば、当然代替の動きはもっと早く出てきてもよかったと思うかもしれませんが、そのためのコストが相当かかることと、この価格逆転がいつまで続くかわからない当初の状況では代替の動きはなかなか出てきませんでした。しかし、価格逆転が大きくなり、それが3年以上続くことになり、代替の動きもようやく本格化してきたようです。

 それが今度はパラジウムの価格下落圧力になりつつあります。パラジウムの最高値は今年5月初旬の2980ドル、現在は2000ドル前後と約1000ドル最高値からは下落しています。最大の需要分野である自動車触媒需要が、半導体不足による自動車生産の滞りで縮小していることが、直接の原因だとされていますが、それに加えてこの上がり過ぎたパラジウムを、触媒としての性能がより高い、しかし安すぎるプラチナによって代替する動きがすすんでいることも大きな要因になっていると思われます。パラジウムの需要減、プラチナの需要増が進んでおり、その結果現在、一時2000ドルあったこの二つの白金族の価格差は1000ドルにまで縮小しているのです。

 プラチナは900ドルに近づく場面では中国のスポット買いが入ってマーケットが支えられています。中国そして欧州でもインフラ整備のためのトラックやバスといった大型車(ディーゼル車)の生産が急増しており、その上排ガス規制の厳格化(中国も欧州も現在はより厳しい第6バージョンの規制になっています。)から、一台あたりのプラチナ使用量も飛躍的に増えています。プラチナには水素社会での水電解の触媒、そして燃料電池車での触媒としての需要の将来的増加の可能性もあり、プラチナは今後の上昇の可能性が高く、パラジウムとの価格差の縮小は続いて行くものと思います。まだ時間はかかるかもしれませんが、ふたたびプラチナがパラジウムを上回る価格になる可能性が高いと考えます。

日本貴金属マーケット協会 代表理事
貴金属スペシャリスト池水 雄一(いけみず ゆういち)氏
池水 雄一(いけみず ゆういち)氏

1962年生まれ兵庫県出身。
1986年上智大学外国語学部英語学科卒業後、住友商事株式会社入社、その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。
2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。2019年9月より日本貴金属マーケット協会(JBMA)代表理事に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーで池水氏の名を知らない人はいない。